会社、システム、車両、駅名…色々面白い! 山万ユーカリが丘線に乗ってきた!

会社、システム、車両、駅名…色々面白い! 山万ユーカリが丘線に乗ってきた!

2021-07-20 0 投稿者: mjws編集

 地図や時刻表の路線図で千葉県の北部を見ると、京成電鉄ユーカリが丘駅から北側に、ラケット状の形が見られますよね?これが山万ユーカリが丘線です。線形も面白いですが、他にも面白いことがたくさんありそうですね。それでは見ていきましょう。

山万ユーカリが丘線 Photo/吉田行徳
山万ユーカリが丘線の路線図 (c)Google

-Contents-
1.山万ユーカリが丘線とは?
2.山万ユーカリが丘線の運行会社「山万」の正体は?  
3.山万ユーカリが丘線、日本唯一のシステム「VONA」とは?
4.山万ユーカリが丘線の車両は昭和生まれの非冷房?
5.山万ユーカリが丘線の駅名はシンプル・イズ・ベスト?
6.山万ユーカリが丘線は赤字でバス転換、廃止になる?
7.まとめ


1.山万ユーカリが丘線とは?

 まずは山万ユーカリが丘線の概要から簡単にご紹介します。※2021年7月現在の情報

 ▼営業キロ:4.1㌔、全線単線
 ▼電気方式:直流750ボルト 
 ▼駅数:全6駅(ユーカリが丘、地区センター、公園、女子大、中学校、井野)
 ▼運行形態:ユーカリが丘駅→公園駅→女子大駅→井野駅→公園駅→ユーカリが丘駅 環状線の公園駅→女子大駅→井野駅→公園駅間は片側一方通行        ユーカリが丘駅⇔公園駅間のみ両方向の運行
 ▼運行間隔:平日朝は約8分間隔、土日祝日の朝は約16分間隔、それ以外は約20分間隔で運行
 ▼運賃:均一制で大人200円、小人100円
     1日乗車券は大人500円、小人250円
     IC乗車券の利用は不可
 ▼歴史:1982年11月2日 ユーカリが丘駅-公園駅-女子大駅-中学校駅間が開業
     1983年9月22日 中学校駅-井野駅-公園駅間が開業し、循環運転が始まる
     1992年12月3日 ユーカリが丘駅-公園駅間に地区センター駅が開業
     現在に至る


2.山万ユーカリが丘線の運行会社「山万」の正体は?

 山万ユーカリが丘線を運行する親会社「山万」は鉄道事業者ではなく「不動産会社」です。

鉄道事業者以外の民間企業が鉄道路線を保有、運行するのは日本ではここ山万ユーカリが丘線だけ。大変珍しい鉄道です。

 山万ですが、戦後大阪で繊維卸売業として創業し、1965年に東京へ本社を移転後、宅地開発事業に進出。1971年に「ユーカリが丘」の宅地開発に着手します。

 ユーカリが丘の街は、従来の家・街を作り終えた時点で開発が止まる「分譲撤退型」とは異なり、長期的な街づくりを目指す「成長管理型」を採用。近年では少子高齢化、環境問題などにも取り組み、全国からも注目されています。ちなみに街のキャッチコピーは「未来の見える街」です。

 「鉄道事業者以外が運行」する山万ですが、開業以来、無事故運転を継続しており、国土交通省から表彰も受けています。今や立派な「鉄道事業者」とも言えますね。 


3.山万ユーカリが丘線、日本唯一のシステム「VONA(ボナ)」とは?

 山万ユーカリが丘線が採用している「VONA(ボナ)」と言われるシステムです。

 「VONA(ボナ)」とは「Vehicle Of New Age」の略称で、その意味は「新しい時代の乗り物」。新交通システムの一つの方式です。

ゴムタイヤの奥に案内輪が見える Photo/吉田行徳
中央のレールが案内軌条。奥の細い線が電線。 Photo/吉田行徳

 この「VONA(ボナ)」の走る仕組みについて。

 線路をよく見ると、「案内軌条」と呼ばれるレールが中央に1本、それを挟むように鉄制の走行板(専用軌道)が続いています。中央に「案内軌条」があるので「中央案内軌条式」といわれます。

 車体の床下から「案内軌条」に伸びる「案内輪」で車体を固定、列車の進行方向を定め、ゴムタイヤを履いた車体が走行板(専用軌道)の上を走ります。

 動力となる電気は「案内軌条」の横に設置されている電線から供給されるので、通常の電車のように頭上に電線はありません。

Photo/吉田行徳
公園の分岐点(ポイント)。特殊な線形ゆえ、切り替えシーンも面白い Photo/吉田行徳

 東京の「ゆりかもめ」、神戸の「ポートライナー」など、同じようにゴムタイヤを履いて走る新交通システムがあります。しかしこれらは車両横の壁に「案内軌条」がある「側方案内軌条式」であり、山万ユーカリが丘線の「中央案内軌条式」とシステムが異なります。

 実はこの「VONA(ボナ)」(中央案内軌条式)を現在採用しているのは、日本でここ山万ユーカリが丘線のみです。

 「VONA(ボナ)」は日本車両製造と三井物産が共同で開発し、1972年千葉県・谷津遊園内の遊具で試験的に採用されます。その後山万ユーカリが丘線が採用。さらに1991年開業した愛知県の「桃花台新交通:ピーチライナー」でも採用されます。

 しかし、谷津遊園は1982年に閉園、「桃花台新交通:ピーチライナー」も赤字が続き、開業してわずか15年後の2006年に廃止。結果、山万ユーカリが丘線が国内唯一「VONA(ボナ)」採用の路線となりました。

 「側方案内軌条式」が主流である現在、山万ユーカリが丘線が「VONA(ボナ)」の独壇場である状況はこれからもしばらく続きそうです。


4.山万ユーカリが丘線の車両は昭和生まれの非冷房?

 山万ユーカリが丘線で活躍する車両は1000形電車。

 開業した1982年から走り続けており、3両1編成、全3編成が今でも現役で走っています。

 車長は両先頭車のが8.85m、中間車が8m、車高3.3m。

 普通の電車が車長約20m、車高約4m程なのでコンパクトなつくりです。

 しかも丸みのあるボディはどことなく愛らしく見えます。

 ユーカリが丘の街の中を走るので、ユーカリにちなんで「こあら号」の愛称がついています。愛嬌ある車体に似合いますね。

 しかし、この車両の唯一とも言える弱点が…

 実は「非冷房」。クーラーが付いていません。

 開業した昭和50年代はまだ冷房付きの車両が少なかった時代。さらに車体をコンパクトにした分、製造当時の技術ではクーラーを掲載するスペースが確保できずに、非冷房になったといわれています。

 近年地球温暖化により、夏は35℃を超える日も。そんな暑さのために山万ユーカリが丘線が打ち出した策が冷たい「おしぼり」の提供と「うちわ」の貸し出し。2018年の夏頃から始められたサービスで、ここ数年は山万ユーカリが丘線の「夏の風物詩」のようになっています。

 ということで、今年も走り出した「おしぼり電車」に乗ってみました。

 2021年7月、梅雨の晴れ間で気温は30℃近くまで上がった土曜日の午後、

 始発のユーカリが丘駅で電車に乗ると、ありました!

 車両の端の座席の上に、クーラーボックスとその横にはうちわ。

「おしぼり電車」のヘッドマークはかつての寝台列車のヘッドマークを彷彿とさせるデザイン Photo/吉田行徳
Photo/吉田行徳
Photo/吉田行徳

 クーラーボックスを開けて、1つおしぼりをいただきます。

 コロナウィルス感染症対策のため使い捨てのおしぼりになっています。(アルコールは含まれていません)

 おしぼりは凍る寸前のキンキンに冷えた状態で、首筋にあてるとひんやりとして、清涼感を味わえます。

 さらに列車が走りだすと、上段の窓が空いているので、心地よい風が入り込み、暑さをひと時、忘れることができます。

 冷房車に慣れてしまった現代では味わうことのできない体験。これも面白いですね。

全車上段の窓を開けて走行。天井には「送風機」の通気口が見える Photo/吉田行徳
昭和生まれの証! Photo/吉田行徳

 開業して約40年ほど経過するため、開業時から走る昭和生まれの1000形電車も置き換えになるのでは?と噂されています。

 しかしながら、上述の通り、山万ユーカリが丘線は日本で唯一のシステム「VONA(ボナ)」を採用している路線。車両も特殊なため、車両新造には莫大な費用がかかります。

 参考までに2019年秋に運行停止となった「上野動物園モノレール」ですが、最後に走っていた40形電車を置き換えるために車両を新造した場合の費用は2両編成で約18億円!これは40形電車を製造した時の約6倍になっており、また通常の電車が1両1億円といわれる中で比較すると1両あたり約9倍の相場になります。上野動物園モノレールが休止に追い込まれた原因の一つが、この高額な車両新造費用でした。

 上野動物園モノレールは、レールにぶら下がって動く「懸垂式」という特殊な構造ゆえに、車両の費用もかかります。よって、特殊なシステム「VONA(ボナ)」を採用している山万ユーカリが丘線にも同じことが言えるでしょう。

 ただ、乗車時間が全線乗り通しても14分、住民の方は途中で乗り降りすることを考えると、平均の乗車時間は7~8分。冷房化のために急いで高額な新造車を導入することはないと思われます。

 またこの「非冷房」のことを逆手にとって、山万は「宣伝」として活用しています。

 昨年9月、鉄道ファンが始発から終電まで約20時間乗車し続ける、いわゆる「耐久乗車」を行い、SNS上で話題になりました。

 山万はこの「耐久乗車」をしたファンに対して、途中で飲みのものを差し入れたり、感謝状を贈るなどして応援。その様子もまた話題となりました。いいアピールになっていますね。

 こうしてみると1000形電車の置き換えはすぐには行わず、これからもしばらくは元気に走り続ける姿を見ることができそうです。

地区センター → 公園間 Photo/吉田行徳
女子大駅横の車両基地。「こあら2号」が休む Photo/吉田行徳

5.山万ユーカリが丘線の駅名はシンプル・イズ・ベスト?

「公園」「女子大」「中学校」。

 これら全て山万ユーカリが丘線にある「正式な」駅名です。

 通常地名や固有名詞が付いて「●●公園(前)」「▲▲女子大(前)」「××中学校(前)」などの駅名になりますが、山万ユーカリが丘線の駅名には地名や固有名詞が付かず、実にシンプルな駅名です。

 ちなみに「公園」とは駅横の「ユーカリが丘南公園」、「中学校」とは駅近くの「佐倉市立井野中学校」のことを指します。が、「女子大」だけは駅近くに女子大が見当たりません。

 実はこの駅、ユーカリが丘の街の開発が始まった頃、和光女子大学のキャンパスがユーカリが丘へ移転するという話があり、それを見越して先に駅名だけ付けた、という面白い経歴をもちます。

 現在までキャンパスの移転はなく、同大学のセミナーハウスだけ当該駅近くに存在します。

 この「女子大」駅の珍事(?)のことがきっかけかどうか分かりませんが、過去にユーカリが丘駅を除く5駅の駅名改称が検討され、山万によって駅名の一般応募もされました。

 新駅名の除幕式の日程等も決まっていたのですが、突如この計画は中止となります。それは、地元住民や利用客から「駅名を変えないでほしい」との意見が多数寄せられたため、ということでした。

 シンプルな駅名でも長年利用していると愛着が沸いてきますよね。

 今となってはこのシンプルな駅名が面白いと、全国でも注目の的となっています。

Photo/吉田行徳
Photo/吉田行徳

6.山万ユーカリが丘線は赤字でバス転換、廃止になる?

 2020年10月30日、山万は同年11月7日よりコミュニティーバスの運行を開始すると発表しました。

 山万ユーカリが丘線の2000年代初頭の輸送実績を見ると、毎年7,000万円前後の赤字続き。開業して約40年が経つので、このニュースが出た時、赤字や老朽化が理由で廃線か?と一時噂されました。

 しかし、ご安心ください。コミュニティーバスの運行は、山万ユーカリが丘線の代替ではなく、逆に山万ユーカリが丘線を補完して、地域住民の利便性を高めるためのものでした。高齢化社会対策一つとして、車を持たない、乗られない住民への配慮という素晴らしい考えです。

 ちなみに山万ユーカリが丘線の電車3編成には「こあら1号」から「こあら3号」の愛称がつけられていますが、コミュニティバスはこれに連動する形で「こあら4号」から「こあら10号」の7台が活躍中です。

女子大駅前で待機する「こあら6号」 Photo/吉田行徳
公園前のバス停。 Photo/吉田行徳

 また同時期、山万は経路検索サイト大手の「ジョルダン」とタイアップし、山万ユーカリが丘線およびコミュニティバスで、「顔認証改札システム」、いわゆる「顔パス」の実証実験を開始すると発表しています。

 山万ユーカリが丘線は、現在IC乗車券が使えない路線の一つです。それを飛び越し、いきなり「顔パス」の導入を試みるとは「未来の見える街」づくりをする山万の攻めの姿勢が伺えます。

 このことからも、山万ユーカリが丘線は廃止どころか、これからも地域住民のためにまだまだ走りつづけることが分かりますね。

ユーカリが丘駅の自動改札機。ICカードは使えない Photo/吉田行徳

7.まとめ

 ▼運行会社は不動産会社
 ▼運行システムは日本で唯一現存する「VONA(ボナ)」
 ▼開業時から現役の車両は非冷房。
  夏に冷たい「おしぼり」のサービス、「うちわ」の貸し出しがある。
 ▼駅名がシンプルすぎる

 こうしてみると、山万ユーカリが丘線がいかにユニークで面白い路線か分かりますね。

 当初は沿線住民の足として走り出した山万ユーカリが丘線ですが、今やこれらユニークな要素を「宣伝」することで、全国各地の鉄道ファンを魅了し、訪れるファンも増えています。

 全線乗り通してもわずか14分。山万ユーカリが丘線のミニトリップを楽しみに、一度乗車してはいかがでしょうか?

Photo/吉田行徳

文/吉田行徳