世界最古の懸垂式【ランゲン式】モノレール|ドイツ「ヴッパータール空中鉄道」

世界最古の懸垂式【ランゲン式】モノレール|ドイツ「ヴッパータール空中鉄道」

2022-04-22 0 投稿者: mjws編集

ドイツ西部の小さな街ヴッパータールに120年以上、地元の人々に愛され続けているモノレールがあります。
世界最古のモノレールとして、世界中のモノレール愛好家から注目されており、乗り物の「よもやま話」にはよく登場する最も有名なモノレールです。

1901年に開業したヴッパータール空中鉄道 写真は新型車両 (c)Adobe stock

第二次世界大戦前から走っているモノレール

1901年開業の「ヴッパータール空中鉄道」は、戦時中をくぐりぬけ、今なお走り続けている歴史の長いモノレールです。
当時、第二次世界大戦の戦時下の被害でモノレールの運休期間もありましたが、戦後には比較的早い段階で運行が再開されています。

また、戦後の近代化に伴い、都市交通機関のニーズに合わせてモノレールの駅設備が再建されています。「ヴッパータール空中鉄道」のアップデート計画は、安全対策の強化を基盤に進められてきています。

(c)Adobe stock

懸垂式【ランゲン式】モノレールとは

「ヴッパータール空中鉄道」は、レールに吊り下がって走行する懸垂式のモノレールです。
一般的にモノレールには2つのタイプ、跨座式と懸垂があって、車両がレールの上を走るのが跨座式、車両がレールに吊り下がって走るタイプが懸垂式です。

日本で運行しているモノレールの中で、東京モノレールや多摩モノレールが跨座式、湘南モノレールや千葉都市モノレールが懸垂式になります。

ドイツの「ヴッパータール空中鉄道」には、ドイツ出身の技術者カール・オイゲン・ランゲン( Carl Eugen Langen)の発案によるランゲン方式が採用されています。
ランゲン式の特徴は、レール・車輪ともに鉄製で、脱線防止のフランジが車輪の両側についているため安全対策に長けた設計になっています。

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ランゲン式の特徴は、レール・車輪ともに鉄製 (c)shutterstock

「ヴッパータール空中鉄道」は、ドイツ語でSchwebebahn。訳すと””宙づり鉄道”と言い、まさにレールに吊り下がってヴッパータールの街をスイングしながら走り続けています。
安全性を保ちながらも、カーブに差し掛かると車体がスイングする体感が、ランゲン式モノレールのひとつの特徴にもなっています。

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川の上を走る「ヴッパータール空中鉄道」

モノレールの車窓から見える景観は、他の交通機関とは異なる俯瞰(ふかん)からの視点が1つの特徴です。
いつも乗り慣れているバスや電車、人々の動く様子、ビルの群れをモノレールの車窓から見渡すことができます。

「ヴッパータール空中鉄道」は、高さ12kメートルの位置に設置されたレール下に吊り下がって総延長13.3メートルの距離を、都市ヴッパータールの景色を眺めながら低空飛行のように走っていきます。

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走行中は、車輪とレールが擦れ合うスキール音が響きわたり、ヴッパータールの古い町並みの中をくぐり抜けるような体感や、高速道路の上を走り抜けるスリルを味わうことができます。

片側だけの座席に乗って

「ヴッパータール空中鉄道」の車内は、座席が進行方向の左側のみ設置されていて、一瞬、バランス的にどうなんだろう?と考えてしまうような座席の配置になっています。

また、座席は進行方向へ向かって前向きに設置されているため、終点に着くといったん車両をUターンさせてから出発する仕組みになっています。
そのために始発駅と終着駅には、車両を方向転換するための線路が設置され、到着するとゆっくりとUターンしてから再び走り始めます。

末端駅で方向転換するモノレール車両 (c)Adobe stock

モノレールを支えるカーブ型の橋脚

「ヴッパータール空中鉄道」の安全運行を支えているレール下の橋脚は、カーブ型の形状で橋脚の間隔が非常に短く設置されています。

モノレールの橋脚はヴッパータール街の交差点に差し掛かる場所だけは、カーブの形状幅が広くなっていて道路事情に合わせた設計になっています。
橋脚は、トンネルのように規則正しく設置されていていて、その景観は、ヴッパータールの街並みに溶け込んでいます。

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「ヴッパータール空中鉄道」こぼれ話~仔象タフィーの騒動

振り返って1950年、サーカスの象タフィーが宣伝のために「ヴッパータール空中鉄道」の車内に乗せられて走行中に、興奮して車窓のガラスを突き破り5メートル下のヴッパー川に転落するという騒動がありました。
タフィーは運よくかすり傷を負っただけで済みましたが、関係各者は、この大騒動に大きなペナルティを受けたという始末です。

当時3歳の仔象だったタフィーは、この騒動で一躍有名になり今では、ヴッパータール市の観光土産品のモチーフとなり、この騒動を題材にした子供向けの絵本にもなっています。
仔象タフィーは、「ヴッパータール空中鉄道」の魅力を語る際に、ストーリーの中の主役となり、モノレールの観光復興に貢献しています。

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湘南モノレールとは姉妹関係

2018年9月13日には「ヴッパータール空中鉄道」と日本の湘南モノレールは、姉妹懸垂式モノレール協定を結び、同じ吊り下がりモノレールとして地域経済の発展と安全運行のための協力をおこなっています。
湘南モノレールは、1970年3月7日、日本初の懸垂式モノレール(サフェージュ式)として神奈川県鎌倉市の大船駅~~藤沢市の湘南江の島駅までを結ぶ路線を運行しています。

ヴッパータール空中鉄道と日本の湘南モノレールは、姉妹懸垂式モノレール協定を結んでいる。 (c)Adobe stock

ランゲン式の「ヴッパータール空中鉄道」とサフェージュ式の「湘南モノレール」の違いをかんたんに説明すると、「ヴッパータール空中鉄道」のレールは片持ちで支えられていて、
車輌はレールとは逆側に伸ばされたアームで台車にぶらさがる仕組みになっています。
「湘南モノレール」は、レール内に設けられた箱状の中に車輪がおさまっているため、走行中の耐震は「湘南モノレール」の方が安定型で、「ヴッパータール空中鉄道」の方が揺れを感じるような形状になっています。

湘南モノレールでは、レール内に設けられた箱状の中に車輪がおさまっている。 (c)Adobe stock

いつまでも愛され続ける「ヴッパータール空中鉄道」

世界最古のモノレール「ヴッパータール空中鉄道」は、地元の人々の移動手段として今もなお活躍し続けています。
レールに吊り下がるタイプの懸垂式で、日本の湘南モノレールと同じタイプのモノレールとして姉妹関係を結び、日本人にも興味深い乗り物として認知度が広がっています。

120年という長い歴史とともに走り続けている「ヴッパータール空中鉄道」は、世界中の人々からいつまでも愛され続けています。

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