三菱重工「次世代新交通システム Prismo」とは

2026-03-28 0 投稿者: mjws編集

― AGTとモノレールの構造比較から見る都市中量交通の新しい方向性

近年、都市交通の分野では中量輸送システムの多様化が進んでいます。地下鉄や在来鉄道ほどの輸送力を必要としない一方、バスよりも定時性や輸送力を確保したい都市において、いわゆる**中量交通(Medium Capacity Transit)**の役割はますます重要になっています。

そのような背景の中で三菱重工業が発表したのが、次世代新交通システム 「Prismo(プリズモ)」 です。

Prismoは、同社がこれまで世界各地で展開してきたAGT(Automated Guideway Transit)の技術を基盤とした新しい都市交通システムであり、都市交通や空港交通、さらには新都市開発における基幹交通などへの導入が想定されています。

では、このPrismoは具体的にどこで採用されるのでしょうか。

結論から言うと、2026年現在、具体的な採用路線や導入都市はまだ公表されていません。

現段階では、特定のプロジェクトに向けた個別開発というよりも、今後の都市交通市場に向けた新しい交通システムのプラットフォームとして発表された段階にあります。

しかしその構造や技術的特徴を見ると、従来のAGTとは異なる新しい設計思想が取り入れられていることがわかります。


三菱重工AGTシリーズにおけるPrismoの技術的系譜

Prismoを理解するためには、三菱重工がこれまで展開してきたAGTシステムの流れを見る必要があります。

三菱重工は長年にわたり、案内軌条式の自動交通システムを世界市場に展開してきました。その代表的なシリーズが Crystal Mover です。

Crystal Moverは、いわゆるAPM(Automated People Mover)として多くの空港で採用されており、空港ターミナル間交通の分野では世界的にも高いシェアを持つシステムです。シンガポール・チャンギ空港、ドーハ・ハマド空港、ワシントン・ダレス空港など、世界の主要空港で同系統のシステムが導入されています。

さらに都市交通向けには Urbanismo と呼ばれる派生シリーズが展開されており、都市型AGTとしての利用も想定されてきました。

Prismoは、これらの技術的蓄積を背景として開発された新しいシリーズであり、従来のAGTの機能を維持しながら、より簡素なインフラ構造によって都市導入のハードルを下げることを目的としたシステムです。

特に注目されるのは、架線レス給電方式センターガイド方式という二つの設計思想です。これらは従来のAGTの構造を大きく簡素化する要素となっています。

Prismoでは車両は駅停車中に急速充電を行い、その電力によって駅間を走行するバッテリー方式が採用されています。これにより、軌道上の第三軌条や架線などの給電設備を削減することが可能になります。

さらに、従来のAGTで一般的であった左右のガイドレールではなく、中央に設置されたガイドレールによって車両を案内するセンターガイド方式が採用されています。この方式により、ガイド設備の数を減らし、軌道構造を簡素化することが可能になります。

これらの技術によってPrismoは、従来のAGTよりも軽量で簡素なインフラを実現し、都市交通としての導入コストを抑えることを目指していると考えられます。

Prismo

想定される導入分野と都市交通市場における位置づけ

Prismoは特定の都市や路線を対象として開発されたシステムではなく、世界の都市交通市場に向けた汎用的な交通プラットフォームとして設計されています。

想定されている用途としては、都市内の新交通システム、空港ターミナル間交通(APM)、新都市開発プロジェクトの基幹交通、スマートシティの公共交通などが挙げられます。

特に空港交通は、三菱重工のAGTがこれまで多数導入されてきた分野であり、Prismoも同分野での展開が期待されていると考えられます。空港ではターミナル拡張や滑走路増設に伴い、新しいターミナル間交通の需要が継続的に発生しています。そのため自動運転型のAPMは空港インフラの標準的な設備となりつつあります。

また近年は中東や東南アジア、インドなどの地域で新都市開発が活発に進められており、新しい都市の交通システムとしてAGTが採用される事例も増えています。こうした新都市では道路交通に依存しない都市構造を形成するため、初期段階から自動運転型の新交通システムが計画されることも珍しくありません。

具体的な導入都市は公表されていませんが、これまでの三菱重工AGTの導入実績を考えると、中東、東南アジア、インド、北米といった地域が主な市場になる可能性が高いと考えられます。

マカオLRT Metro Ligeiro de Macau

モノレールとAGTの構造原理の比較

Prismoの構造を理解するためには、AGTとモノレールの基本的な構造原理を整理しておく必要があります。

両者はともにゴムタイヤを使用する都市交通システムですが、軌道構造の考え方は根本的に異なっています。

モノレールは、その名称の通り一本の軌道によって車両を支持する構造を持つ交通システムです。跨座式モノレールでは、車両はコンクリート製の軌道桁をまたぐ形で走行し、走行輪によって荷重を支持しながら、側方の案内輪によって車両姿勢を安定させます。

この構造では、車両の荷重支持、案内、安定という三つの機能がすべて軌道桁によって担われます。そのため軌道桁は単なる走行面ではなく、橋梁構造に近い役割を持つインフラとなります。分岐器も桁そのものを切り替える構造となるため、大型で複雑な装置になります。

一方でAGTは、走行面と案内機構を分離した構造を持つ交通システムです。車両はコンクリートまたは鋼製の走行面の上をゴムタイヤで走行しながら、側方に設置されたガイドレールによって進路を制御されます。

この方式では、走行面は道路に近い構造となり、ガイドレールによって車両の横方向の位置を制御することで軌道を形成します。分岐器も比較的コンパクトな構造で実現することができます。

日本国内では ゆりかもめ、日暮里・舎人ライナー、神戸新交通、広島アストラムライン などがこの案内軌条式AGTに分類されます。

このように、モノレールは一本の軌道によって支持と案内を一体化する交通方式であるのに対し、AGTは走行面と案内機構を分離した交通方式であるという点に根本的な違いがあります。

PrismoはこのAGTの系統に属する交通システムですが、その案内方式には従来のAGTとは異なる特徴が見られます。


センターガイド方式の技術史と再評価

Prismoの特徴であるセンターガイド方式は、完全に新しい技術というわけではありません。むしろ都市交通の技術史の中では、比較的早い時期から提案されていた方式の一つです。

1960年代から1970年代にかけて、都市交通の分野ではさまざまな新交通システムが研究されました。この時代は、地下鉄や高架鉄道に代わる新しい都市交通方式が世界中で模索された時期でもあります。

その中でゴムタイヤ式交通の多様な方式が提案されましたが、その一つが中央のガイドレールによって車両を案内するセンターガイド方式でした。この方式はガイドレールが一本で済むため、軌道構造を簡素化できるという利点がありました。また軌道幅を小さくできるため、都市空間における導入の柔軟性が高いというメリットもありました。

しかし当時は車両制御技術やセンサー技術が現在ほど発達しておらず、車両の安定した案内を実現することが難しかったため、実際に普及したのは左右にガイドレールを配置するサイドガイド方式でした。

1970年代以降に整備された多くの新交通システムでは、このサイドガイド方式が主流となり、日本の新交通システムもほぼすべてこの方式を採用しています。

近年は自動運転技術、車両制御技術、センサー技術が大きく進歩し、よりシンプルな軌道構造でも安全な運行が可能になっています。このような技術的背景のもとで、センターガイド方式は再び実用的な選択肢として注目されるようになりました。

Prismoは、このような技術史の流れの中で登場した新しいAGTシステムといえます。


都市中量交通の新しい選択肢としてのPrismo

Prismoは、従来のAGTの延長線上にありながらも、構造面では新しい思想を取り入れた交通システムです。

特にセンターガイド方式の採用は、従来の案内軌条式交通とは異なる設計思想を示しており、都市中量交通のインフラ設計に新しい可能性を提示しているといえます。

現在はまだ具体的な導入都市は発表されていませんが、今後新都市開発や空港交通の分野で採用が進めば、AGTの新しい世代のシステムとして注目される存在になる可能性があります。

都市交通の分野では、地下鉄、モノレール、AGT、LRTなど多様な交通方式が併存しています。Prismoはその中で、より簡素なインフラによって導入可能な中量交通システムとして、今後の都市交通の選択肢の一つになっていくのかもしれません。