世界最大のモノレール廃墟が眠る都市、プトラジャヤ -Putrajaya Monorail
2020-05-22こんにちは、MJWS編集室です。今回ご紹介するMonorail channelのモノレール未成線は、世界最大級のモノレール遺構を未だ抱えるマレーシアはプトラジャヤから、プトラジャヤモノレール(Putrajaya Monorail)を紹介いたします。
モノレールや廃墟、未成線がお好きな方にはそれなりに名の知れているプトラジャヤおよびプトラジャヤモノレール。プトラジャヤは、マレーシアの行政新首都として開発が進めれている連邦の直轄領ですが、市内には過去に建設が進められていたモノレールに関連する遺構が多く見られます。
特に、プトラジャヤサスペンションブリッジと呼ばれる、モノレール用のつり橋は、モノレールのみならずプトラジャヤを象徴する構造物遺産として多くの人に知られているほか、プトラジャヤセントラル駅の3階部分には、作りかけのモノレール駅舎およびレールの一部が未だなお残されていて、廃墟、未成線マニアの心をくすぐり続けています。
プトラジャヤモノレールの遺構は、この2つの構造物が有名なわけですが、プトラジャヤが世界最大のモノレール遺構を残す町と言われる所以は、実はこの2つの構造物に対してのものではありません。それは、プトラジャヤの中でも一番の大通りとして存在するプトラジャヤ大通りの地下に眠っている大規模なモノレール用地下トンネルを指したものだったのです。
プトラジャヤモノレールは、延長12km、17駅からなる1号線と、延長6km、6駅からなる2号線の2路線での整備計画が進められていました。1号線は実際に建設が進められており、このうち、プトラジャヤセントラル駅、モノレールサスペンションブリッジ、プトラジャヤ大通りの地下トンネル、およびこの新入部、プトラジャヤ大通りの一部であるプトラ橋等の構造物は実際に建設が完了しています。
プトラジャヤ大通りの地下トンネル以外の構造物は、グーグルアース等で目視にて確認する事ができますが、プトラジャヤ大通りの地下トンネルだけは見ることができません。このため、マレーシア以外に住む多くの人は、この地下トンネルの存在を多くは把握していません。
将来モノレールを通すために一体整備された道路が、現在のプトラジャヤ大通りです。プトラジャヤ大通りは、別名ペルシアランペルダナと呼ばれる、マレーシアのプトラジャヤで最も長い大通り。北のダタランプトラと南のダタランジェミランを接続しています。この道路中央部地下には、今もモノレール用の全長およそ6kmにも渡る地下トンネルが眠っています。この地下トンネル、2019年には、主に鉄道事業者を対象とする現地見学会が実施されており、内部の状況を画像で確認する機会もありました。
プトラジャヤ大通りの一部は、サーキットとしても活用されており、2014–15フォーミュラEシーズンの第2ラウンドとしても使用されました。この内、スタートおよびフィニッシュストレートとなるコースのメインストリートが、このプトラジャヤ大通りに設けられます。モノレール軌道の上をフォーミュラーカーがレースをするなんて、なんだかロマンがありますね。
また、プトラジャヤ大通りの北側にはプトラ橋と呼ばれる複合構造の橋が配置されており、混合開発区および北側の行政区とを結んでいます。
橋の長さは435m、3段構造になっており、上段は自動車道路および歩行通路、下段はモノレール用の通路となっており、さらに最下層にはレストランなどの商業施設が配置されています。プトラジャヤ大通りの地下トンネルを通過したモノレールルートは、このプトラ橋の中段層を通過した後、行政区に至る事となる予定でした。
なお、地下トンネルがあるという事はこの地下に入る入り口があるという事なのですが、プトラジャヤモノレールには1号線と2号線の建設計画が存在し、両線のトンネル進入部も当然の事ながら存在します。
トンネル進入部は1号線について入口出口の2箇所、2号線用の入口出口の2箇所、計4箇所が市内に残されています。この事からも、プトラジャヤ大通りには巨大な地下トンネルが残されている事がよくわかります。
まず1号線の進入部ですが、西側の入り口はプトラジャヤモノレールブリッジのすぐそばに建設されています。プトラジャヤセントラル駅を出たモノレールは、プトラジャヤモノレールブリッジを越えた後、すぐにこのトンネルで地下区間に移行する予定でした。また、地下トンネルに入ったモノレールルートは、この南側で大きくUターンする格好で、プトラジャヤ大通りの地下に入ります。プトラジャヤ大通りを超えたモノレール地下トンネルは行政区左手付近で地上に出る計画でした。
プトラジャヤ大通りの一部区間は2号線も使用する計画でしたので、2号線のトンネル進入部も入口出口と二つ存在します。
まず南側の入り口です。プトラジャヤ大通りの南側から地下区間に移行したモノレールルートは、川の底にあるトンネルを経由して、プトラジャヤ大通りの地下トンネルに入ります。プトラジャヤ大通りの途中で1号線とルートを後にした後、プトラジャヤ大通りの東側で地上にでていく計画でした。
如何でしょうか。トンネルの出入口まであると言われると、このモノレール計画が本気で進められていた事と、プトラジャヤ大通りの地下トンネルの存在がぐっと身近になりますね(トンネル位置は動画内で紹介しています)。
以上が、マレーシアで最大となるモノレール遺構、プトラジャヤ大通りの概要です。現在ではこの地下トンネルは、進入部および2号線用の一部区間を含め、全長6km近くにもおよぶ巨大なモノレール遺構となりました。
プトラジャヤモノレールでは、紹介したプトラジャヤ大通りの他、プトラジャヤ・サイバージャヤ駅のモノレール遺構も見逃せません。プトラジャヤ・サイバージャヤ駅は、KLセントラル駅とクアラルンプール国際空港を結ぶ路線、KLIAエクスプレスの途中駅で、同列車自体は通過するものの、エクスプレス・レール・リンク の列車が停車します。駅構造は、島式ホーム2面4線の地上駅で、改札・コンコースは2階に、ホームは1階に存在します。また、3階はモノレールのホームとなっていますが、ホームおよびレールの一部は、この駅を出た所で建設が中止されています。
さらに、この駅の東側には人造湖のプトラジャヤ湖が広がっていて、
先ほど紹介したプトラジャヤ大通りへ向かうモノレールルートが、つり橋でこの湖を渡る予定でした。このつり橋が、通称モノレールサスペンションブリッジと呼ばれる、もう一つのモノレール遺構。橋は延長約240m、幅員10mのモノレール専用橋となっています。橋はプトラジャヤ・ホールディングス社が所有していて、設計はPJSインターナショナル社が行いました。
この構造物は2003年に完工していますが、モノレール自体の建設は、マレーシア政府の資金提供が止まった2004年から中断されています。このため、今後の建設の実行可否によって、未成線および廃線といずれかのカテゴリーに属するかが決定すると言えます。ちなみに、プトラジャヤ自体は人口増加の一途を辿っており、今後モノレールの建設が再開する可能性も未だあります。
如何でしたでしょうか、特にプトラジャヤ大通りの地下トンネルは、目に見えないながらも世界最大クラスのモノレール遺構として現存しています。プトラジャヤ大通りは、プトラジャヤを象徴する通りとして広く知られているため、メディア等で目にする機会も多いのではないでしょうか。次回目にする機会があれば、この地下にモノレール用のトンネルが眠っているんだな と考えると、違った面白さがあるかもしれません。
後述:なお、プトラジャヤモノレールプロジェクトに関しては、連邦のハリドアブドゥルサマド大臣が2020年1月に会見を行い、同プロジェクトを2025年までに完了する予定である事を発表した。2004年半ばに延期されたプトラジャヤモノレールプロジェクトについては、今後プトラジャヤ社(PPj)ではなく運輸省が主導するモノレールルートの建設を継続する。同氏は、同省はすでに運輸省と協議していると述べ、プロジェクトの調整・計画が予定通りに行われいる事を強調した。同氏はまた、このプロジェクトは、イーストコースト鉄道(ECRL)プロジェクトや高速鉄道(HSR)プロジェクトなど、プトラジャヤに一度導入された他の計画で開発される事を示している。
文 モノレール・ジャパン 田村拓丸
情報配信を通じ、モノレールインフラの維持発展に寄与する を活動理念とする。鉄道情報系体で記事配信。記事のライティングおよび校閲、デザイン、配信サービス向け動画監修、モノレール専門の取材活動。