ピーチライナーの廃線跡を行く。2021年現在

ピーチライナーの廃線跡を行く。2021年現在

2021-07-09 0 投稿者: mjws編集

こんにちは!MJWS編集室です。

今回ご紹介するのは、名鉄線の小牧駅から同線の終点となる桃花台東駅までのおよそ7㎞を繋いでいた新交通システム、桃花台ピーチライナーについてです。

桃花台新交通は桃花台ニュータウンのアクセス路線として1991年に開業しました。起点の小牧駅から終点の桃花台東駅までの7.4 kmを結び、途中に小牧原駅・東田中駅・上末駅・桃花台西駅、桃花台センター駅を設けていました。

この路線、廃止後長らく軌道が残ったままとなっていたわけですが、近年軌道の撤去が開始され、今後その跡形も徐々に失われていく事が決定しています。今回はこのピーチライナーの廃線跡の一部と、撤去工事が始まってしまった要所要所を訪れましたので紹介していきます。

まずは名鉄小牧線に乗車し、桃花台新交通ピーチライナーの起点駅が併設されていた小牧駅を目指します。

解体が進むピーチライナー小牧駅

画像はピーチライナーの小牧駅で、名鉄線の小牧駅はこの地下に位置しています。

名鉄小牧線の小牧駅、ピーチライナーが高架駅であったのに対し、名鉄線は地下駅となっている。

名鉄小牧線は、名古屋市北区から春日井市、小牧市を経由して犬山市とを結ぶ名鉄の1路線。犬山駅では名鉄犬山線と接続し、他の動画として紹介している犬山モノレールの廃線跡がある犬山遊園へも行くことができます。ピーチライナーも含めてという事になりますが、モノレールや新交通システムの歴史や廃線なんかを調べると、かならず名古屋または愛知県に足を踏み入れる必要があります。なんとも感慨深い土地です。なお、以外と知られていなかったりしますが、豊川の日本車両には日本で最古となるモノレール車両が展示されています。興味がある方は訪れてみては如何でしょうか。

さて、名鉄小牧線の小牧駅到着後は、ピーチライナーの廃線跡にそって散策していきたいと思いますが、まずはこの起点となる小牧駅周辺から。ピーチライナーの小牧駅は地上3階層の駅舎で、想像していたよりも結構立派な外観です。これだけの設備を有する構造物も廃線となってしまう事があるなんて、永久の将来はわからないものの、建設時の見通しが如何に大事かという事を語りかけてくれています。

ピーチライナーの小牧駅跡、解体作業の真っ最中だった。

なお、御覧の様に旧ピーチライナーの小牧駅は解体の真っ最中。そう遠くない時期に完全に姿を消すものと推察されます。現地を訪問される場合は早めの方が良いかもしれません。駅の全体感を観察しつつ、ここからは廃線ルートを見ていきましょう。

小牧駅こそ解体工事が進んでいるものの、この先の高架線については今の段階ではそれほど撤去は進められていません。以降、大きく変化があった箇所に絞り、紹介していきます。

解体作業が進む小牧駅から高架軌道が伸びる。

小牧駅よりしばらくの区間、ピーチライナーは名鉄小牧線と並走していきます。といっても、小牧線はこの途中まで地下を走行していて、途中から地上に出て高架線に入っていきます。画像には、東名高速とのクロッシングポイントが見えてきました。

東名高速とのクロッシングポイント

名鉄小牧線については地下区間から高架線に移行するGL部に該当しまが、ピーチライナーについては、この東名高速をアンダーパスする格好で軌道が配置されていました。今回の訪問時には、丁度このアンダーパス部分の軌道撤去が進められていました。

東名高速とのクロッシングポイント

現在この区間では、撤去中の軌道の様子の他、中央案内軌条式を採用する新交通システムの軌道断面の様子を間近で見ることが可能です。

軌道断面の様子

また近くに配置されている歩道橋からは、ピーチライナーの次駅となる小牧原駅の様子も見ることができます。このまま少し歩いて、小牧原駅周辺を散策してみましょう。

ピーチライナーの小牧原駅

ピーチライナーの駅構造は、ループ線で進行方向を変える関係上、いずれも1面2線構造が採用されています。途中、地下駅も存在こそするものの基本はほぼ高架駅で構成され、小牧原駅も例外なく高架駅となっています。

なお、ピーチライナーおよび名鉄の小牧原駅はほぼ同じ位置に併設されていて、駅名こそとりはずされているもののほぼ現役当時の状態が今も維持されています。

ピーチライナー小牧原駅跡

こちらがピーチライナーの小牧原駅、駐輪場の一角として埋もれていますが、当時の風景を思い起こすことが十分可能な状態ですね。

ピーチライナーの小牧原駅

こちらは駅舎の様子を側面の道路からみた様子です。このピーチライナー、今では一般的となっているホームドアを、開業時から採用する等、結構先進的な機能を取り入れていたそうです。

ピーチライナーの軌道は3階層高架位置に配置されていますが、対する名鉄の小牧駅は2階層高架駅となっていて、名鉄のホームからは、旧ピーチライナーの軌道を見上げる格好となります。これだけの構造物が、現役の鉄道の線路上を跨いでいる事に驚きですし、もちろんこれらピーチライナーは既に廃線となっているわけです。

名鉄線小牧原駅とピーチライナーの廃線跡

さて、ここからピーチライナーは名鉄小牧線と別れ、桃花台東駅を目指し進んでいく事となります。 我々も名鉄線小牧原駅を後にし、ピーチライナーの廃線跡を散策する事としました。

ルートはこの小牧原北交差点より、160号線から155号線に遷移、北尾張中央道に沿って進んでいきます。進路を西にとった直後およそ700mで、ピーチライナーは3つ目の駅となる東田中駅に到達します。

ピーチライナーの東田中駅


東田中駅は、ピーチライナーのみならず、モノレールや新交通システムでは王道と言える3階層構造駅となっていて、2階が改札コンコース階、3階がホーム階、1階は車道となっています。

ピーチライナーの東田中駅入り口

2階から1階へは画像に見える乗降用階段で上り下りします。ホームドアこそ設置した先進的な機能を有していたピーチライナーですが、エスカレーターを採用していないのが不思議なポイントとなっています。

説明がこのタイミングになってしまいましたが、ピーチライナーが採用した「新交通システム」とは、正式には「自動案内軌条式旅客輸送システム」と称し、「AGT」とも略されます。

意味合いが少し変わってしまいますが、海外路線では同規格の交通システムをAPMと称したりもします。新交通システムは複数方式が存在し、共通して言えるのがゴムタイヤ駆動であるという事。新交通システム上の方式ではあるものの、ピーチライナーでは中央案内軌条式という方式を採用しています。国内では他に、山万のユーカリが丘線がこの方式を採用しています。

AGTという交通システムは、ざっくりとではありますが、バスとモノレールの中間程度の輸送力が持たされた交通機関。なお、新交通システムは開発初期においては、横方向に移動するエレベーターという位置づけで開発がスタートされていました。

ただ実際には、運転間隔や一回の輸送量、採算性を加味した上で、複数両編成で運行する方式が基本となり、ピーチライナーをはじめとする鉄道的外観に落ち着いたという経緯があります。

桃花台西駅外観

さてここで、画像には桃花台西駅が見えてきました。桃花台西駅はピーチライナーのルートではイレギュラーとなる法面設置駅で、改札階がGLに配置される比較的珍しい構造を有した駅となっています。改札の前には公園広場が広がっており、住宅地と一体整備とした駅として構想された事が見て取れます。もっとも、今現在では公園の前に残る大きな廃墟となってしまっています。

桃花台西駅前は公園となっている。

ピーチライナーは1991年3月25日に開業、しかしながら当初見込みと異なり、開業早々に想定を大幅に下回る輸送量と収入の低迷に苦しむことになります。その原因は、建設前に実施された需要予測でバスなど他の交通機関との競合を十分に考慮していなかったことや、桃花台ニュータウン自体の予想人口が計画時の5万人に対し、実際には2005(平成17)年時点で27.000人程度に留まったことなどが挙げられます。

さらに、全駅を高架または地下に設け、ホームドアも完備するなど、身の丈に合わない構造を採用したことも経営圧迫の一因となりました。

さて、ピーチライナーには先ほど紹介した様に地下区間も存在しています。

桃花台センター駅へのアプローチ部
桃花台センター駅

御覧頂いている桃花台センター駅は、改札階がGL、ホーム階が地下構造に配置されており、駅前後の軌道がまるまる地下区間となっています。桃花台センター駅は、駅前に整備されたショッピングモールと一体整備された駅となっていて、路線営業時はとても便利だったんだろうと思います。

桃花台西駅(小牧駅)方向から桃花台センター駅を見る

ピーチライナーの軌道は、ここから200mほど先に位置する桃花台中央公園脇まで地下区間を走行します。

画像は地下に配置される軌道の直上部の様子。ピーチライナーの存在を知らないと、この下に軌道があるとは想像も付かない外観です。ピーチライナーは、さらに公園の外周を走行する区間は、途中まで地上層を走っていきます。

なお、この桃花台中央公園、地図で想像していたよりもとても立派な公園で、公園内側の外周部からは、ピーチライナーの軌道跡を上方から観察する事ができます。 ピーチライナーの軌道跡は、先ほど紹介した様にGL層に配置されています。

このため、軌道を観察するのには、軌道より高い位置にある公園から見下ろすのが一番だと思います。

さて、桃花台中央公園の外周を抜けると、いよいよピーチライナーは終点となる桃花台東駅が見える位置まで来ます。

桃花台東駅、そしてこの付近の軌道は、小牧駅と同様、駅舎は完全に解体が完了していて、御覧の様に軌道も大半が撤去された状態となっています。

また、桃花台東駅の小牧駅方向には、ピーチライナー営業時には車両基地が設けられていました。

本線から車庫線に分岐した軌道は、画像位置に過去存在したループ線をつたって道路を渡り、現在バス駐車場等に使用されている画像位置を車庫としていました。

現在は軌道も車庫設備も撤去されており、だだっ広い広場の様になっています。

さて、長く歩いてきた廃線跡の散策も、ここ桃花台東駅でいよいよ終わりとなります。

桃花台東駅の先には、小牧駅と同様折り返しのためのループ線が配置されていますが、2021年現在、ピーチライナー関連設備としては、このループ線が残るだけとなっています。

右手の工事用フェンスが配置されている箇所が、桃花台東駅の駅舎跡。つい先日までは支柱などの構造物も残っていたそうですが、撮影時点では御覧の様に更地となっていました。また、小牧駅方向に延びていた軌道も、少し先にのこる高架部分まで完全に撤去が完了しています。

先に位置するループ構造物を見に行ってみましょう。

桃花台東駅は将来の延伸に備え、ループ線の付け根部分が延伸可能な構造となっていたのが特徴です。もっとも延伸が行われる事はありませんでした。なお、延伸計画としてはこの駅より更にJR中央本線・高蔵寺駅へと繋げる構想でした。

余談ですが、名古屋市近郊ではバスが一部区間で高架上のガイドウェイを走る「ゆとりーとライン」が営業しています。ピーチライナーにおいても、路線跡をバス専用レーンに転用するというアイディアも出されたりしましたが、一般道路からのアプローチに難があることなどから、現実的でないとの理由で見送られています。

さて、現在のピーチライナーの廃線跡の現状ですが、2015年、愛知県はピーチライナー軌道後の全線撤去方針を示し、順次撤去が開始されていく事となってしましました。撤去工事の完了予定は、現時点で2030年となっており、総工費は約100億円にも達する見込みです。

今回はピーチライナーの廃線跡を見てきましたが如何でしたでしょうか。鉄道の設置は街を発展させ、その鉄道自体をさらに発展させていく場合、このピーチライナーの様に需要予測が下回り、廃線に追い込まれる場合と様々です。いかに鉄道の運営が難しいのかという事と、計画の見通しが大事であるかという事を教えてくれます。